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HOT!タール通信 Ancient future vol.12 【ドラムと変容】 Written by Shiryu



 ピアノの音も、人間の声も、猫の鳴き声も、全て、基本音、2倍音、3倍音・・・
という倍音関係(周波数が1:2:3:・・・という倍数の比率をなす関係)になっ
た成分が集まってできています(大雑把な話ですが)。前にも書きましたが、ここ
で、倍音関係にある成分をいちいち別の音として聴いてしまうと、日常生活ではかな
り不便なことになります。たとえば、猫の鳴き声は、一つの声として、まとめて聴い
たほうが、猫を見つけるのに役立ちます(笑)。
 幸いなことに、私たちの聴覚システムは、倍音関係にある成分をひとまとめにする
と言う働きを持っています。この働きが、人類の進化の過程で生じたのか、生まれて
以来の学習によって生じたのか、はっきりしませんが、おそらく、進化と学習との両
方が関わって、このような都合のよいシステムができあがったとおもわれます。騒音
の中で、誰かの話し声を聴きとろうとするとき、我々の聴覚システムは、騒音と、話
し声とを分離しなければなりません。このときに、声を形作る成分の倍音関係が、重
要な手がかりになるのです。つまり、倍音関係にある成分をひとまとめに捉えると言
う聴覚の仕組みは、私たちの日常生活を大いに助けているのです。 
 だから、倍音関係にある成分をいちいち別の音として捉えるというのは、かなり特
殊な状態だと言えます。その状態をもたらす原因について前々回触れました。具体的
には、様々な研究により、脳波の同調化を起こすのにもっとも効果的な方法はリズミ
カルな音楽だということ、音楽の理解は脳半球の共同作業によってなされ、リズミカ
ルな音は脳波をアルファ波やシータ波に変えること、古代の宗教的習慣・儀式の多く
はこうした脳半球の同調化という変性意識を引き起こす試みだったように思われるこ
とをお話ししました。
「フレームドラムはシャーマンの乗り物」と言われますが、私たちが使っているハン
ドドラム(TAR)もフレームドラム、歴史を遡れば、前回書いたように、紀元前
2500年ごろまで遡ります。
 膜鳴楽器(皮のヘッドを張ったドラム)の最初の痕跡が出現するのは新石器時代に
なってからのことだが、最初のドラムが何時作られたかは分かっていません。旧石器
時代と新石器時代のある時点で、誰かが天才的なひらめきで皮の素晴らしい音楽的可
能性を発見したのでしょう。
 やがて、チグリス川とユーフラテス川に囲まれた肥沃な三日月地帯でシュメール文
明が花開き、その頃(紀元前2500年頃)の浮き彫りにフレームドラムの形を見ること
ができます。シストルム(ガラガラ)や笛とともにシュメールの時代において神殿祭
儀の際、用いられていたものです。神殿では毎日聖なる歌が唄われ、専門の音楽学校
を抱えるほどだったといいます。
 儀式で使われる音のリズミカルな反復によって、身体・脳・神経系は活性化され変
容します。

 60年代の終わりに優れたイギリスの人類学者ロドニー・ニーダムが「パーカッショ
ンと変容」について『マン』誌に短い論文を書いて、社会科学の分野で議論がされて
きたようです。また、そのおかげで誕生・思春期・結婚・死という精霊の世界に教え
を請う儀礼において、ほとんど世界中でパーカッションが使われるという事実に注目
が集まるようになりました。
「なぜ、打ったり振ったりして作り出される音が、かくも広くもう一つの世界との通
信に使われているのか?」ニーダムは問いかけた。『マン』誌の次号にはニーダムへ
の答えの議論がいくつか紹介され、その一つがその数年前心理学者のアンドリュー・
ネーアが音響分野で発表した『ドラムを使用した儀礼における異常行動の生理的解
説』を引き合いにだしたものだったそうです。実験室でのドラミングを研究したネー
アは被験者の脳波を<駆り立て(ドライブし)>または<同調させて>アルファ波と
シータ波の境目に陥らせることを発見した。(ミッキー・ハート『ドラム・マジッ
ク』参照)

 人の神経系の基本となる機能単位はニューロンです。ニューロンは小さな細長い細
胞で、これを長く複雑な鎖に編み上げると感覚器官からの神経インパルスを脳に伝え
る神経経路になります。
 皮膚、目、耳、口、鼻などに分布する無数の受容器が捉えた感覚刺激は、電気エネ
ルギーの瞬間的な高まりである神経インパルスに変換されます。数十億個の小さな神
経インパルスが神経経路を駆け上がる様子はドミノ倒しのようなものです。途中でシ
ナプス間隙を飛び越えたり、神経伝達物質と呼ばれる化学物質の放出を促したりしな
がら脳を目指します。
 脳に達した神経インパルスは、それぞれの感覚器官に対応する第一次感覚野に送ら
れて、予備的な情報が取り出されます。こ情報が五感のそれぞれに対応する第二次感
覚野に送られて、より緻密な情報が取り出されます。情報は次に連合野へ送られて、
さらに高度な処理を受けます。連合野とは、その名前の通り、脳のさまざまな部位で
処理された情報を統合する部位で、個々の感覚器官からの情報は、他の感覚器官から
の情報と組合わされて、意識の基本要素となる豊かで多層的な近くを生じさせます。
連合野は記憶や情動の中枢とも連絡していて、私たちが外界を正しく体系化し、適切
に対応することを可能にしています。
 で、リズミカルな音の反復を聴くということは、このドミノ倒しのような一連の流
れを反復して繰り返すということになります。

 ネーアの理論ではパーカッション、特にドラミングは、あまりに密度が高く不調和
であるために、すぐに消えてしまい、周波数帯を超えて散らばる。それによって聴覚
メカニズムの許容範囲を超える音を出すため<駆り立て役(ドライバー)>をはやす
のだといいます。この負荷のかけ過ぎがトランスを引き起こす助けになると。
 しかし、ジルベール・ロジェは『音楽とトランス』の中で「もしネーアが正しいと
したら、アフリカの半分が年中トランス状態だろう」とせせら笑っている。

 続きは次回。


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【タール通信AncientFuture INDEX】

(10/13/2004)


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